抗精子抗体と漢方.jpg抗精子抗体の存在は、不妊との関連性が高いとされる因子の一つです。抗精子抗体は、精子に結合してその機能を阻害する抗体であり、このような抗体が関わった免疫性不妊は不妊患者の5から10%も認められるとされます。抗体が関与する免疫性不妊に関してはまだ未解明の点も多く、流産と関係している可能性も示唆されています。特に抗リン脂質抗体は流産を繰り返した場合には検査されることが多いでしょう。
なぜ抗精子抗体が出来るのかは分かっていません。本来、女性の体は精子を異物と認識しないはずですが、なぜか抗体が生成されて、精子を攻撃してしまうのです。その結果、精子の運動が阻害され、受精能力が落ち、精子と卵の融合を障害します。
なお抗精子抗体は男性にも出来ることがあります。
この抗精子抗体の有無に関しては、ヒューナーテストが参考になります。ヒューナーテストはタイミングを取ってから数時間後に女性の子宮の頸管粘液を採取し、精子の運動性を観察するという試験です。抗精子抗体が存在すれば、精子の運動性が低下していることが確認されます。
ここで異常が確認されると精子不動化試験に進むことが多いでしょう。女性の血液と精子を混ぜて、その抗体の有無を検査します。
またイムノビーズテストと呼ばれる検査は男性が自分の精子に対して抗精子抗体がないかチェックする方法です。
ただ、これらの検査結果はその時の状況によってかなり大きく変化するとされます。今までプラスであったのにマイナスになったり、数値が急激に下がったりということもあります。また抗精子抗体があっても絶対に赤ちゃんを授からないということもありません。検査結果が悪いとすぐに体外受精などを勧められるケースが大変だと思いますが、変動しやすい因子であることは覚えておくと良いのではないでしょうか。
ちなみに抗精子抗体は子宮や頸管に存在しますので、体外受精に問題はなく、その成績も良好です。
さて抗精子抗体の存在が分かった時にどのような対処を取ればよいでしょうか。病院ではステロイド(免疫抑制剤)の服用、もしくは当面コンドームでの夫婦生活を勧められ、体外受精の話も出てくるでしょう。
一方、漢方では免疫の異常と捉え、抗体という”邪気”を体内から排泄することを考えます。「シベリア霊芝」や「イーパオ」など、免疫を整える作用を持ちながら”邪気”を追い払うことのできるお薬が候補となるでしょう。
また、”邪気”が体内に出来る(入る)根本的原因は”正気”の弱さにあります。「衛益顆粒(えいえきかりゅう)」や「補中益気湯(ほちゅうえっきとう)」などの”気”を高める漢方を併用するケースも考えられます。さらにはストレスなどとの関係も考えられますので、”肝”と”腎”を補う「杞菊地黄丸(こぎくじおうがん)」や「二至丹(にしたん)」などの漢方を服用した方が良い場合もあるでしょう。
しかし”抗精子抗体”ということに極端に惑わされずに、体質を考慮してお薬を選択することが重要です。
抗精子抗体による不妊は意外に多いように感じます。変動しやすい因子ですが、気になる方は一度検査を受けてみても良いのではないでしょうか。
*参考文献 不妊治療ガイダンス第3版(医学書院)