補中益気湯と男性不妊.jpgいまだに有効な改善の手立てがない男性不妊。精子の運動率や濃度の値が悪いと、人工授精での濃縮処理がまず検討され、その後は体外受精に進み、最後は顕微授精とステップアップしていきます。
しかしこれらの手段は精子の状態をアップさせる訳ではありません。顕微授精の場合には数千万の精子の中から形態や運動性を見て、ピックアップすることにより受精させます。ある意味人に依る選別という操作が入っている部分でもあり、議論のあるところでしょう。とはいえ、受精卵を確実に作るために、顕微授精もかなりの頻度で行われているようです。
女性の方に原因があると思われる場合であっても「体外受精は仕方ないが、せめて顕微授精は避けたい」という方も多く、そのようなケースでは男性の精子の状態にかかってきます。
私は受精すれば良いとは思わず、妊娠から最終的なゴールの出産まで至るには、見た目ではない精子の状態アップが欠かせないと考えています。また数値がたとえ基準値を満たしていても、精子の状態を高めることが、より妊娠、出産の可能性を高めることにつながると感じます。
さて現状病院等で男性の精子の状態が悪いと判断されたケースで、何か対処法を考えるとすれば、漢方薬の「補中益気湯(ほちゅうえっきとう)」の服用が有無を言わさずに選択されるケースが大半です。なぜならば現状で乏精子症(精子の数が少ない)・精子無力症(運動率が悪い)に対し実績のある薬が「補中益気湯」しかないからです。その「補中益気湯」も効能効果として「男性不妊」と明記されているわけではなく、「虚弱体質、疲労倦怠感、食欲不振」などが確認されているだけです。確かに様々な臨床データで「補中益気湯」の服用で精子濃度や運動率の改善が見られた、妊娠率が上がったとありますが、誰しもが認めた効果がある訳ではなく、現時点でエビデンス(証拠)がもっとも信頼されている薬として「補中益気湯」が選択されているだけなのです。
漢方の考え方からみると、まず「補中益気湯」を男性不妊の方に無秩序に与えるという点で疑問符が付きます。「補中益気湯」の体質に合っている方でなければ、その効果は期待できないからです。
確かに男性不妊で精子の数値が悪い方は「気(エネルギー)」が足りないケースが多く、「気」を補う力を持つ「補中益気湯」が体質的に合う方が多いとは言えます。しかしながら、胃腸が強く、がっしり体型で暑がり、血圧が高めでイライラしやすい方で精子の状態が悪いケースも多々ありますが、このような方は漢方的に見て「補中益気湯」は全く合わないと言ってもおかしくありません。
補中益気湯」は「気」すなわちパワーを高める作用がありますが、そもそもは胃腸系が弱い方に用いるお薬です。食欲が無い、胃下垂気味などの症状を持ちながら、性欲減退気味でやる気が出ずに体力が無いという方に使用します。このようなタイプの方で精子の数値に問題がある方は「補中益気湯」を試してみても良いでしょう。とは言えその判断は簡単ではないので、専門家に委ねた方が無難です。
せっかく薬を服用するのであれば、合っているお薬を飲みたいところですよね。男性不妊=補中益気湯とは考えずに、ぜひ体質に合わせて漢方薬を選択し、妊娠の可能性を高めていきましょう。