甲状腺機能と不妊の関係は最近知見が増えてきているように思われます。というよりも、内分泌科と少しマイナーな分野であり、よほど問題となる症状がなければ詳しく調べることが多くなかった甲状腺が、様々な部分で大事な役割を担っていることが分かってきて、注目される機会が増えているような気がします。その流れで不妊との関連性も医学的に取り上げられるようになったのではないでしょうか。
そもそも甲状腺から分泌されるホルモンは、全身の臓器に影響を与えます。その役割は一言で言えば新陳代謝。よって、甲状腺機能が低下して、ホルモン分泌が少なくなると体の活力が低下しますので、だるさ、寒がり、低体温、便秘、むくみ、皮膚の乾燥などの症状が生じるとされます。また冬場に症状が悪化したり、脈が遅くなったり、体重が増えたりする傾向もあります。
ただし、これらの症状は甲状腺機能低下以外の場合にも生じますし、症状に波があったりと、明確な病気として捉えられることが少ないものです。よって「なんとなく」という経過をとり、何かのきっかけで数値を調べて判明することも多いのです。
さて、この甲状腺ホルモンは成長にも関係し、卵胞の発育にも影響を与えると考えられているほか、妊娠に関係する様々なホルモンへの働きかけがあるとされています。たとえば、甲状腺ホルモンの低下が、高プロラクチン血症を引き起こす可能性もあり、これは排卵への影響が懸念されます。また、流産との関連性のデータも示されています。
よって、甲状腺機能が正常に働いていることが、妊娠の可能性を高めることは間違いないのですが、甲状腺機能低下だけが不妊の原因になることも多いとは言えないと感じます。それでも最近は甲状腺ホルモンの低値を認めた場合には、チラージンという甲状腺ホルモン補充のお薬を服用しつつ、不妊治療に望まれる方が増えているようです。
甲状腺機能の低下に伴う症状を漢方の理論でみると、典型的な「陽虚」の症状であることが分かります。「陽虚」とは、体の活力と関係する「陽」が不足した状態ですが、甲状腺ホルモンの役割はまさに「陽」そのものですから、一致して当然とも言えます。となれば、「陽虚」を治していくことが不妊対策につながると考えられます。
具体的には、動物性生薬が配合され、しっかりとした「補陽」作用を持つ「参馬補腎丸(じんばほじんがん)」が代表的な漢方薬となります。また「オリジン(プラセンタ)」や「イーパオ」「八味地黄丸」などが適した場合もあります。
甲状腺機能低下が認められた場合、チラージンを服用することも大事かもしれませんが、それですべて解決とはならない面があるように私は感じます。歴史がある漢方の考え方を取り入れ、「補陽」を行って損はありません。
とはいえ、その際には漢方の専門家に相談をして、しっかりとした体質判断を行い、自分の身体に最適な漢方薬を選ぶようにしましょう。
なお、甲状腺機能が亢進した状態も、不妊に関係するとされます。そのテーマについては追って書きたいと思っております。