漢方薬の効能効果をよく見ると、下記のような記載を多く目にします。
◎体力虚弱の方で…
◎体力中等度の方で…
このような記載が成されるようになった経緯は定かではありませんが、漢方の体質判断を分かりやすくしようとしたためと想像できます。日本漢方が重視する体質判断の要素に「虚証」「実証」があり、この「虚証」に対応する言葉が「体力虚弱」、「実証」は「体力充実」などと示すようにしたのではないでしょうか。
しかしながら、「虚証」「実証」を体力だけで推し測ることは無理があります。そもそも自身の体力を客観的に判断できる方も多くないように思います。そしてこの考え方には「虚証」「実証」が個々固定された体質であることを前提としていると思われますが、本来の中医学の考え方では、「虚」「実」は状況によってコロコロ変わるものとされているのです。
さらには、漢方の処方はすべてが「虚証」「実証」の区別をもとに使用されるわけではありません。たとえば、非常に弱々しい方であっても、皮膚の症状が強く出ていれば、まずは「黄連解毒湯」など「瀉(出す)」のお薬で皮膚症状を鎮める場合があります。しかし「黄連解毒湯」は「体力中等度以上」の記載があるのです。
他にもカゼで使う以下の処方も、疑問符が付く体力の記載があります。
◎麻黄湯…体力充実して~
◎葛根湯…体力中等度以上~
◎麻黄附子細辛湯…体力虚弱で~
これらの処方をカゼの際に使用するとき、普段の体力を重視することはほとんどありません。ムキムキのスポーツマンであっても寒気が強ければ「麻黄附子細辛湯」を使いますし、全く運動をしない細い方であっても「麻黄湯」を使うケースはあります。
ということで体力と言う記載はもちろん、「実証」「虚証」をベースとして適する漢方薬を選択する方法に無理があります。ぜひ漢方に詳しい専門家に相談をされたうえで、しっかりとした「弁証(体質判断)」に基づいた漢方薬を服用するようにして下さいね。