肝炎と漢方.jpg慢性肝炎の原因のほとんどはB型、もしくはC型の肝炎ウイルスであるとされています。肝炎は無症状で進行する点が怖い病気であり、ウイルスのキャリアであっても普通の人と何ら変わりなく生活出来ますが、徐々に肝線維化が進んでしまって肝硬変や肝がんになる恐れがあります。
肝臓は沈黙の臓器と呼ばれ、自覚症状が現れにくい点が厄介なのです。
肝炎が進行しているかどうか把握するためには、血小板数の測定や、GOTやGPTなどの肝機能数値を参考にします。血小板数が20万/μl以上であれば問題ない可能性が高いのですが、10万以下となりますと発がん率が高くなります。
根本的な対策としてはウイルスの除去しか無いのですが、現在の西洋医学では確実に除去する手立てはありません。B型肝炎ではインターフェロンを半年から1年間近く投与する方法や、ラミブジン(ゼフィックス)、アデホビル(ヘプセラ)などの薬がウイルス増殖抑制効果があるとされます。またC型肝炎では、インターフェロンの他、リバビリン(レベトール)との併用治療が行われています。しかしどの方法も副作用が強い点や、長期間の投与が必要であること、100%の成果は期待できないことなどが問題となっています。
よって、治療したにも関わらずウイルス排除が出来なかった場合や、高齢、体力低下などにより治療が適さない場合、キャリアと分かっているけれど経過観察となっている方などは漢方薬の服用を検討しても良いでしょう。
肝炎と漢方を考える場合にいわゆる「小柴胡湯事件」を忘れてはいけません。数十年前、慢性肝炎に小柴胡湯が効果があるとされ、多くの患者さんに無秩序に投与された結果、間質性肺炎などの重篤な副作用が発生し、漢方薬で死者10人などと報道されました。
確かに「小柴胡湯」が合う肝炎の方もいると思いますが、漢方薬は病名で安易に判断して使用してはいけません。体質を考慮し、的確な漢方薬を選択する必要があります。特に”肺”が弱く、”乾燥”している方に「小柴胡湯」は合わないでしょう。
さて肝炎の方は自覚症状に乏しいのですが、疲れやすい、食欲不振、イライラ、口が苦い、わき腹が痛い、などの症状を訴えることがあります。これらの症状から体質を判断して、服用する漢方薬を決定します。
特に初期ではイライラなどの症状が出やすいのですが、これは中医学で云う”肝”の”気”の巡りが悪いために生じると考えて、「逍遥丸(しょうようがん)」などの服用を検討します。さらには痛みなどが生じ始めた場合には「お血」の存在が疑われるため「冠元顆粒(かんげんかりゅう)」や「当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)」などを考慮します。
病状が進んでしまうと、”虚”の症状と呼ばれるめまいや疲労感が現れるため、「杞菊地黄丸(こぎくじおうがん)」などの併用も考えなければなりません。
そして肝炎の方に多く存在し、注意しなければならない”湿熱”という病態があります。この”湿熱”が存在する場合には、上記のお薬が合わない可能性が高く、「茵ちん五苓散(いんちんごれいさん)」などで湿気と熱を取り除く必要が出てきます。
上記のような体質に合わせたお薬に加えて、「板藍根(ばんらんこん)」などの抗ウイルス作用があるとされる比較的穏やかな漢方薬を併用すると、なお効果的でしょう。
漢方による肝炎の治療でも、やはり長い目で考えていく必要が在ります。ウイルスを無理に封じ込めようと考えると、逆に大きな副作用や体力低下につながってしまいます。体の免疫力を保てば、ウイルスの活動を抑えることが出来ます。無理をせず、体を労わって過ごすことが何よりの養生であることを忘れずに覚えておきましょう。