過敏性腸症候群と漢方.jpg過敏性腸症候群はIBSとも呼ばれ、最近増えているとされる疾患の一つです。診断方法としてはローマⅡ診断基準があり、
「腹部不快感や腹痛が1年のうちに12週以上あり、その症状が以下の3つの特徴のうち2つ以上をみ満たすこと」とされます。
1)排便により軽快する
2)排便頻度の変化を伴う
3)便の性状の変化を伴う
ただ一口に過敏性腸症候群と言っても、症状の程度は様々です。通勤通学が困難になったり、外出も難しいケースもあれば、朝の一時期だけというような方もいらっしゃいます。
原因はストレスとされますが詳しいことは分かっていません。現実に、それほどストレスを感じていない方も発症しているケースもあります。また治療が簡単ではない病気の一つであり、薬物療法だけでは限界があるとされます。生活習慣、食事を含め、ストレスを引き起こしている要因の可能な限りの排除を考えていかなければ、なかなか症状は収まって来ません。
薬としては高分子重合体と呼ばれるポリフルやコロネルが使用されます。また合わせて、胃腸薬が処方されることも多いでしょう。
一方、漢方の考え方では、胃腸系(脾)と精神面(肝)は密接な関係があるとされています。その関係が崩れて「肝脾不和」と呼ばれるお互いがケンカしたような状態となると、胃腸機能が不安定となります。便秘下痢を繰り返したり、病状が一定でなかったりする過敏性腸症候群の症状は、まさしく「肝脾不和」の状態です。
「肝脾不和」を治すための代表的な漢方薬は「逍遥散(しょうようさん)」です。更年期障害などで使われることも多い薬ですが、胃腸系にも効果がある内容になっています。とはいえ、こちらはどちらかと言えば「肝」に対するお薬であり、当面の胃腸系の症状を抑えるためには「開気丸(かいきがん)」などの漢方を考えます。
また、下痢症状が強い場合には「勝湿顆粒(しょうしつかりゅう)」などのお薬を検討しても良いでしょう。逆に便秘傾向が強い場合には、穏やかな形でお通じを整えながら様子を見るため「麻子仁丸(ましにんがん)」などを少量ずつ使っていきます。
ちなみに病院では過敏性腸症候群には「小建中湯(しょうけんちゅうとう)や「桂枝加芍薬湯(けいしかしゃくやくとう)」などが主に用いられているようです。しかしこれらは「脾」を穏やかに調整するだけであり、「肝」にはあまり作用しません。状況に依っては上記に挙げたような方針で対処をしていくべきでしょう。
なお、過敏性腸症候群の方は、食べ物に依るお腹への負担を極力減らすとともに、リラックスを期待できる食養生を行っていく必要があります。お刺身や生野菜、冷たい飲み物(ビールを含む)、油の多いもの、乳製品などは控えめにすると良いでしょう。
逆に酢の物や梅干し、柑橘系など、酸味のあるものは「肝」への効果が期待出来、お勧めです。また根菜類などを摂り、「脾」を労わることも必要です。
とはいえ、ストレスが大敵なこの病気、あまり制限をし過ぎると、かえって逆効果になる場合もあります。食事は楽しんで摂ることが大原則であることを忘れないようにしましょう。
(参考図書;今日の治療指針(医学書院))