間質性肺漢方.jpg今も昔も怖い病気である「肺炎」。つい100年ほど前は死亡原因のトップであったとされ、現代はがんや心疾患が死亡原因の多くを占めるものの、高齢者の肺炎の死亡は伸び続けていて脳血管疾患を上回って3位となる年もあります。
戦前は「肺病」と恐れられていた「結核」をはじめ、肺の病気は命を奪うことが多いという特徴があり、抗生物質の活躍で感染症が少なくなったとはいえ、今でも油断ならない病気であることは疑う由もありません。
その「肺炎」の中でも、予後が悪い(その後の経過が悪くなることが多く死亡するケースも多い)とされる「間質性肺炎」という病気があります。「間質」とは、組織を支える部分であり、どちらかと言えば表面と言うより深い位置に在ります。その深い部分が炎症を起こしてしまうと、なかなか治療が難しいとされるのです。
基本的には50歳以上の方に多く、男性・喫煙者の頻度が高いとされます。ウイルスなどの原因も指摘されますが、原因不明とされる場合が多く、その際には「特発性間質性肺炎」と呼ばれます。
症状は乾いた咳や、息切れなどですが明確でないことが多く、レントゲンを撮って初めて診断されることも多いようです。症状はゆっくりと進行するのですが、”急性憎悪”と呼ばれる急激な呼吸困難症状などを呈すケースもあるので要注意とされます。
治療はステロイドや免疫抑制剤で炎症を鎮めることとなります。しかしこれらの治療が効果のないケースもあり、また症状が穏やかである場合においては積極的な治療は行われないことも多いでしょう。
このような状況においては漢方薬が選択肢の一つとなっても良いと思います。症状がひどくなくとも慢性的に経過し、突如牙をむくような病気でもある「間質性肺炎」。その特徴からしても日頃からの養生として漢方が役に立つように感じます。
さて、そもそも漢方では「肺」は体の「前線基地」と考え、逆に言えば攻撃を受けやすい”臓”と捉えます。よって風邪に代表される表面上の疾患(軽く、治りやすい)で収まるケースも多いのですが、深く体質が絡むような場合には治りが悪くなってしまいます。「間質性肺炎」の場合にはまさに”深い”疾患であるため、長い目で見て「肺」をケアしていくことが肝要です。
ポイントとしてまず考えられるのが、「肺腎」の「虚」です。「肺」は当然ですが、年齢が関係している病気ですから生命力を担う「腎」の消耗も疑われます。そして「陰」の不足、すなわち「肺」を中心としての潤いが足りない傾向もあると思われます。
よって、これらを満たす漢方薬として「肺腎陰虚」体質に用いられる「八仙丸(はっせんがん)」が一番の候補となってくるでしょう。とはいえ、「衛益顆粒(えいえきかりゅう)」などの「肺気」の充実を図る処方なども考えられますし、咳のことを考えて「麦門冬湯(ばくもんどうとう)」などのお薬が適切な場合もあると思われます。同じ「間質性肺炎」でも、症状や体質は様々。漢方的な診立てが重要となってきます。
なお、「間質性肺炎」と言えば忘れてはならないのが「小柴胡湯」の副作用です。一時期大きな問題となりました。しかしこの問題は体質判断をせずに無造作に「小柴胡湯」を使用してしまった要因が大きいように思います。逆に最近では「間質性肺炎」に「小柴胡湯」を用いて、症状の改善が見られたという報告があるぐらいです。もちろん頭に入れておく必要はある副作用ではありますが、気にし過ぎて漢方薬服用のメリットを見逃すことのないようにしたいものです。
≪参考資料;今日の治療方針(医学書院)≫