振戦は、いわゆる”ふるえ”です。振戦には様々な種類がありますが、体を動かす際や、ある種の姿勢をとった時のみ発症するという特徴がある、原因不明の振戦を、医学的には「本態性振戦」と呼びます。本態性とは、原因不明という意味ですね。
主に手のふるえが注目されることが多いのですが、頭やあご、舌や足に起こることもあります。
本態性振戦は青年期に発症することが多いとされ、家族性が疑われることもあり、遺伝要素が考えられます。一方で老人性振戦は、加齢に伴って生じる振戦であり、誰にでも起こり得る病態と考えます。特に頭の振戦などは、日常生活に問題がなければ積極的に治療されることは少ないようです。逆に手の振戦などが仕事や日常生活に影響を与える場合には、抗てんかん薬などが使われることもあるようですが、効果が感じられないケースや体に対する負担が気になることも多いでしょう。
老人性振戦は、加齢に伴うものと言われても、やはり目立つものであり、何とかしたいと思う気持ちは強いことと思います。振戦が気になって、人前に出れないなど、活動を妨げているケースもあるのではないでしょうか。
このようなケースでは、漢方薬の対処を検討しても良いと考えます。もちろん魔法の薬はないのですが、振戦対策だけでなく、体全体のケアにもつながります。
中医学的に「ふるえ」は、体の中に起こる”風”が原因であることが多いと捉えます。「内風」と呼びますが、この「内風」が体の筋肉などを動かしてしまうと考えるのです。
「内風」が生じる原因は様々ですが、老人性振戦の場合には、加齢がきっかけであることがはっきりしていますので、「腎」の消耗が関係していることは間違いないところです。「腎」は生命力に関連した臓ですから、年齢と共にどうしても「腎虚」が進むとされます。そして、この「腎虚」が「内風」を生み、ふるえになってしまっていると考えられます。
よって、「腎」特に「腎陰」を補う漢方薬である「六味地黄丸(ろくみじおうがん)」をベースとした「瀉火補腎丸(しゃかほじんがん)」「杞菊地黄丸(こぎくじおうがん)」や、「星火亀鹿仙(せいかきろくせん)」などの薬を使いつつ、「内風」を鎮める「半夏白朮天麻湯(はんげびゃくじゅつてんまとう)」などを使用していくことが、対策として考えられます。
さらには血流が悪い「おけつ」が絡んでいることもあり、その場合には「冠元顆粒(かんがんかりゅう)」の服用も考慮します。
振戦症状がこれ以上進まないようにするためにも漢方は活用できますし、原則病院の薬との併用も可能です。振戦をなんとかしたいなあ、とお考えの方、ぜひ漢方の服用を検討してみて下さいね。
≪参考図書;今日の治療指針(医学書院)≫