遊走腎と漢方.jpg一般的に腎臓は周辺の組織によって腹膜に固定され、ほとんど動かないようになっていますが、立った時や深呼吸などをしたはずみで移動する方がいらっしゃいます。大体において下前方に動くそうですが、その移動に伴い腰や背中に痛みが生じることがあり、この状態を「遊走腎」と呼びます。
痩せている女性に多く、右側の腎臓が遊走する割合の方が高いそうです。痩せている方に多い理由は、腎臓を固定化する組織が脂肪組織であるためで、遊走腎が発見された場合には、まず体重を増やすことを指導されることも多いでしょう。
症状がひどい場合には、背中やわき腹の痛みや不快感の他に、血尿や蛋白尿が見られることがありますが、遊走腎によって起こっている症状であると断定することは困難であるそうです。
よって以前は行われていた腎臓の固定手術は腎機能の低下の恐れもあることから、最近ほとんど行われなくなり、痛みなら鎮痛剤、血尿であれば止血剤など、いわゆる対症療法に依る治療で対応します。
このように医学的に根本的な解決が難しい時こそ漢方の出番です。遊走腎と診断されたが無症状の場合や、体調などによって時々痛みが生じるようなケース、根本的な体質改善によって遊走腎対策を行いたい場合など、ぜひ漢方の活用をご検討ください。
さて漢方的に遊走腎を考える場合、まず「腎」の問題を考慮しなければなりません。漢方で云う「腎」は医学的な「腎臓」とは異なりますが、やはり遊走腎は「腎」が不安定であることから、その力不足である「腎虚」体質である可能性が高いと考えます。尿の問題が起きている時は特に「腎」をケアできる漢方薬をまずは検討してみましょう。
さらに遊走腎の場合には、「腎下垂」とも呼ばれる通り、「腎」が”落ちて”しまっている状態と言えます。漢方では「気」が「固摂機能」を持っているという考え方があり、これは臓をその場にとどめておく機能と解釈します。「気」の力があればこそ、重力に抗い、臓器がその場に保てるのであって、「気」が不足すると”落ちて”しまうと考えるのです。
すなわち遊走腎は「気」の不足である「気虚」との関連性も深いと捉えることが出来ます。よって「気」を補う漢方薬であって、上にも持ち上げる作用を有す処方が遊走腎に用いられます。
遊走腎は生死にかかわる問題ではないことから、それほど重要視される病気ではないように思います。しかし遊走腎が見られる方は、漢方で大事とされる「腎」や「気」の状態が今一歩の可能性が高いでしょう。大きな病気を防ぐためにも、ぜひ漢方に依るお体のケアを検討してみて下さいね。
【参考図書;今日の治療指針(医学書院)】