漢方小建中湯.jpg病院のお医者様が子供に漢方を使う時に、おそらくもっとも頻度が高いのが「小建中湯(しょうけんちゅうとう)」というお薬だと思います。
ちなみにいわゆる保険が効く「医療用の漢方製剤」は約150種類。処方されるお薬全体の80%以上がツムラさんの製品です。そして、大人も合わせて最近もっとも使用されている製剤は「大建中湯(だいけんちゅうとう)」のようです。西洋薬で 対処の難しい、手術後の胃腸のケアに盛んに用いられています。腸管の麻痺や膨満感に効くとのことです。
話が少しそれましたが、「大建中湯」と「小建中湯」は名前を見ても分かるとおり、同じ系統の処方です。「大建中湯」はピッタリの100番、「小建中湯」は99番ということで、これまた覚えやすいですよね。
その「大建中湯」は、乾姜、山椒、人参、膠飴(うるち米からなる飴)で構成されます。そして「小建中湯」は芍薬、甘草、桂皮、生姜、大棗、膠飴。内容的には膠飴しか一緒ではありません。しかし、同じ「温中散寒剤」に分類されるというのが面白いところです。
少し難しくなりますが「温中散寒剤」というのは、「中」すなわち身体の真ん中にある胃腸を「温」め、「寒」を「散」らす処方を示します。そしてその効果は「小建中湯」より「大建中湯」の方が強いのです。
さて本題に戻りますが「小建中湯」は子供の虚弱体質に良く処方されています。確かに胃腸虚弱に用いる処方ですから、それ自体は間違いではありません。飲みやすく、良く効くケースも多いようです。
しかしながら、このお薬は身体を温める内容であり、胃腸系の弱さを改善するための漢方です。よって、暑がりの子供や胃腸は強いけど、体質的にもともと弱い子などには向かないのです。そのような判断もせずに「小建中湯」を出す先生が多いことも事実で、漢方の未来を案じ、悲しくなりますが…
同じことが「大建中湯」にも言えて、かなり温める作用が強いお薬なのに”寒熱”かまわずに処方されています。確かに術後は体力が衰えて冷える方が多いのかもしれませんが、「術後のケア」で一律に処方されるなんて、かなり乱暴です。
ちなみに「小建中湯」は中国での使用頻度はかなり低め、というかほとんどゼロではないでしょうか。穏やかな内容であるためで、胃腸の冷えには「人参湯(理中湯)」が普通は使われ、こちらの方が良く効くのです。「大建中湯」も同様で、これが日本の漢方で販売量がトップクラスの処方であると知ったら、中国の漢方の先生は驚くはずです。
ということで、子供の漢方として「小建中湯」を服用することは、しっかりとした体質の見極めがされていればもちろん問題ありません。しかしながら、私の経験上「小建中湯」がピッタリという子供はほとんど見たことがありません。胃腸虚弱の子供には「健脾散(参苓白朮散)」や「補中益気湯(ほちゅうえっきとう)」が合うケースが多く、先天的な発育不良の子供の場合は「六味地黄丸(ろくみじおうがん)」などを服用すべきです。
小建中湯」は飲み続けて悪いお薬ではないので、その点は安心ですが、せっかくであれば一番子供の体にあったお薬を飲ませたいですよね。