慢性腎炎と漢方.jpg慢性腎炎という病名は正式ではありませんが、数年から数十年に及んで慢性的に経過する腎臓に炎症があると思われる病態を指します。生検(腎臓の組織を採取しての検査)を行わなければ正確な診断がつきませんが、慢性糸球体腎炎が多いとされます。
腎炎になると、蛋白尿や血尿が出ることが多いため、健康診断などで見つかることが多いでしょう。しかしながら安静時に採取した尿で、タンパクや血液が検出されなければ問題はなく、医師から「軽い腎炎でしょうかねえ。様子を見ましょう。」などと言われて終わることが多いようです。慢性腎炎の原因は分かっていません。
慢性腎炎ははっきりとした症状が出るケースはあまり多くありません。むくみや高血圧、貧血、倦怠感などが起こる場合もありますが、そのような症状を感じられるようになった時は、腎炎が悪化してきている状態と考えられます。
とはいえ、病院での治療も難しい疾患です。尿タンパクの値が高い場合や、クレアチニンクリアランスの値が低い場合、血圧が高い場合にはステロイド薬などで治療を行いますが、まずは食事制限を勧められるケースが多いでしょう。
慢性に経過し、特にこれと言った症状が出る訳でもなく、自然に良くなることも多い疾患です。そのために油断してしまう方も多いのですが、腎臓の病気は治りにくく、血圧に影響したりと、決して侮ってはいけない病気とも言えます。気にし過ぎてしまってもいけませんが、腎炎と一度でも言われたことがある方は、腎臓のことを頭に入れて生活しておくと良いでしょう。
さて漢方でも「腎」は、体の奥、深い部分に位置する重要な臓と考えます。「腎」と「腎臓」はイコールではありませんが、ある程度は関係があり、「腎」のケアをすることが慢性腎炎の対策にもつながります。「腎」は「水」のグループに属しますから、水はけが悪くなってむくみが生じることも多い腎炎には、中医学的に云う「水湿(余分な水分)」を除去する漢方薬が有効となってきます。具体的には「五苓散(ごれいさん)」や「真武湯(しんぶとう)」が使用されることが多いでしょう。
また「腎」は「腎気」と呼ばれる、人間の機能を担う根本的なエネルギーが蓄えられています。その「腎気」が損なわれると免疫力が落ち、倦怠感にもつながると考えますので、慢性腎炎の症状と一致します。
よって「腎気」を補う処方である「牛車腎気丸(ごしゃじんきがん)」や「参馬補腎丸(じんばほじんがん)」などのお薬が適することもあるでしょう。
ただし、原則は「慢性腎炎」という病名で漢方薬を選ぶわけではなく、漢方的な診立てによって体質を決定し、その体質に合わせてお薬が選択されます。もちろん西洋医学的な検査数値も参考にしながらお薬を決めていくこととなりますが、総合的な判断が必要であることは覚えておきましょう。
最後に「腎」を守る養生法を少しお伝えしておきます。
★無理な生活をしないこと。特に性生活は節度を守ること。
★腎に良いとされる食物(海藻類、貝類、ヤマイモ、エビ、ゴマなど)をバランスよく摂ること。
★水分を適度に取るとともに、尿が出やすくするような食物(ハトムギ、冬瓜など)も摂ること。
このような点を守っていけば、腎炎のケアにもつながりますよ。