肺MAC症は非結核性抗酸菌症の一種で、最近中高年の女性を中心に増えていると言われます。10年前は10万にあたり6人程度であった罹患率が、現在は約15人とされます(平成26年度厚生労働省資料)。名前の通り、菌感染で生じる病気ですが、この菌はほこりや土壌、水の中に生息していることまでは分かっていてもどのような経緯で発病に到るのかは不明です。
症状としては咳や痰が主体であり、結核と同様に血痰が出るケースもあるそうです。まれに皮膚疾患につながることもありますが、ヒトからヒトへの感染はないと考えられています。
肺MAC症が厄介なのは、10年単位の長い期間患うケースが多いこと。明確に効果の期待できる抗生物質がないために、一度症状が落ち着いても再発してしまうケースも多いとされます。薬の服用を何年も続けること自体も大変ですし、それでも咳が続くとなると憂鬱になって当然です。そして長期間の抗生物質服用による胃腸等へのダメージも気になるところでしょう。ストレスで免疫力が低下し、悪循環になっているケースもあるように感じます。
こうなると考慮したいのが漢方薬の服用。西洋医学的な治療が難しい時こそ漢方を試してみる価値があります。もちろんとてもしつこい菌ですから、漢方でもすぐに軽快とはいかないかもしれません。それでも肺の病気は古来から人間を悩まし、それに対して漢方などで対処してきた実績があります。病院の薬で収まらなかった咳が軽快した例は非常に多くあるのです。
では具体的には漢方でどのような対応が考えられるかというと、慢性的に経過する病気という観点からも「八仙丸(はっせんがん)」や「衛益顆粒(えいえきかりゅう)」などの、「肺」を補う処方を第一に考えるべきと思います。「八仙丸」は「肺」「腎」を補うお薬ですから、年齢とともに体が消耗してきて発症したような、やや年配の方に向いているとも言えます。一方で「衛益顆粒」は「肺」を補い、免疫力を高める作用がありますから、元気不足で、気管支など呼吸器がもともと弱いタイプの方に向きます。
一方で当面の症状改善には「五虎湯(ごことう)」など炎症を鎮める漢方薬や、痰を除くための「五行草(ごぎょうそう)」なども考慮してもいいでしょう。
いずれにしても肺MAC症という病名よりも、その方の体質や症状によって漢方を選ぶことが大切です。病院の先生から「一生付き合う病気」と言われてショックを受けている方、ぐずぐずとしっかり治らずに何か新しい治療を考えたい方、ぜひ体に合った漢方薬を試してみて下さいね。
≪参考図書;今日の治療指針(医学書院)≫