貧血と漢方.jpg貧血は頻繁に耳にする病態の一つですね。特に成人女性は月経という”出血”の要素があるため、どうしても貧血になりやすい傾向があります。しかし貧血は男性や月経のない女性にも起こります。昔は学校の朝礼などでずっと立っていると倒れる生徒が何人もいましたが、今はどうなのでしょうか。
また最近はダイエットをする女性が多いですが、これも貧血の要因となります。あまり体重ばかり気にして、病気になってしまわないように気を付けましょう。
ちなみに加齢とともに進行する貧血もあります。
貧血の症状は多くの方がある程度理解されているのではないかと思いますが、立ちくらみやめまい、動悸、息切れ、顔が青白くなるなどが特徴となります。その他、爪がスプーン状になったり、口角炎の発生などの他、まぶたの下の色が白くなったりすることが知られており、貧血が進んだ状態はどなたにも見分けがつきやすいでしょう。
医学的にはHb(ヘモグロビン)の数値が11以下(性差あり)となると貧血と言われます。原因としては鉄欠乏性が多いとされ、Hbの値が低いとすぐに鉄剤を処方されることが多いのですが、本当は血清フェリチン値やMCV,MCHなどの値も確かめてから判断すべきです。
貧血がある場合には他の病気が隠れていることも多々あります。消化管からの慢性出血が原因となっているケースも多いため、慢性的な貧血であったり、貧血が進行している場合などは精密検査が必要です。
なお貧血対策には「鉄」と思っている方も多いのですが、私は安易に考えるべきではないと感じます。確かに血液(ヘモグロビン)を作るためには鉄分が必要ですが、それ以外のビタミン・ミネラル分なども関与して初めて生成されます。鉄剤で貧血が解消されることも多いので、全く間違っているわけではありませんが、鉄剤やサプリメントなどに頼るのではなく、食事から摂取することを第一と考えていきましょう。
もう一点、鉄剤も胃腸から吸収されることを覚えておかねばなりません。鉄剤は消化吸収が悪いため、服用した量の1/10程度しか活用できないとされます。これは鉄剤の副作用として胃腸障害が非常に起きやすいという点とも関係します。
よって消化吸収を高めるために、胃腸に負担をかけないことが大事となり、そのためには鉄分を含みつつ胃腸に負荷をかけない状態である食事を中心に対策を考えていくべきでしょう。少なくとも胃痛を起こすこともある鉄剤を漫然と飲むことは控えた方が良いと感じます。
さて、漢方的に云う「血」は医学的な「血液」とほぼ同義であるため、貧血は「血」の不足(血虚)であることは明白です。しかしHbの値が基準値でも「血」が少ない方はいらっしゃいますし、逆に基準値以下でも「血」不足が顕著でない方も見受けます。やはり自覚症状が大事であり、先に述べた立ちくらみや動悸などの症状があるかどうかで漢方的な対処も変わってくるでしょう。
また漢方では「血」をもう少し広い意味でとらえます。そのために不眠や目の疲労、生理不順、不妊などがある場合にも
「血虚」の可能性を考えます。
中医学には「補血」作用を持つ生薬がたくさんありますので、それらを組み合わせて作られた処方である「四物湯」が貧血に対する基本処方となります。しかしこれよりも「補血」に優れている「婦宝当帰膠(ふほうとうきこう)」の方が早く効果を実感できると思います。
そして「血」が生み出される「脾」すなわち胃腸系のケアも重要とされます。胃腸の吸収力が弱いから「血」不足になるのだと捉えるのです。よって、「脾」に対する生薬と「血」を補う生薬がブレンドされている「帰脾湯(きひとう)」も使用することがあります。
慢性的な貧血は、命に関わることはなくとも、生活の質を大きく損ねてしまいます。一時的な対策ではなく、漢方的に考えた根本的な対応をぜひ行ってみて下さいね。