先日、東京で開かれたNPO法人日本不妊カウンセリング学会の講座を聴いてきました。この学会は、その名の通り、不妊のカウンセリングの重要性を認識し、その発展と普及を目指して運営されています。
不妊という状態は、普通に暮らしている時には何の不自由もなく健康そのものである人が、突然”病気”のように扱われてしまうことが多いという、少し特別な性格を持っています。また赤ちゃんが授からないという状態は精神的に大きな負担となるため、カウンセリングの重要性が増してきます。
私も漢方の相談という形ですが、いわば不妊のカウンセリングを行っています。そのうえで、知っておきたい知識や心構えなどを知るために、今回はこの講座を聴いてきた次第です。
学会には当然薬剤師だけでなく、医師、看護師、助産師、心理士、鍼灸師など様々な分野の方が参加しています。よって、講義の内容はもちろんですが、質問の際には様々な立場からの意見が聞けて勉強になりました。
そこで今回は、講義を受けて、私自身が特筆すべきと思った内容について記してみたいと思います。
★卵や精子における染色体の本数異常の頻度はとても高い
認定遺伝カウンセラーの田村智英子先生の話にあった内容です。
人間の染色体の本数は46本ですが、卵や精子が出来る際には通常23本となります。しかし、どれほど健康な男女であっても、その時にミスが起こり、22本や24本の卵や精子が出来るとされます。当然、これらの卵や精子はたとえ受精したとしてもほとんどが途中で成長を止めてしまいます。
年齢が高くなると妊娠しにくくなったり、流産が多くなったりする原因の一つはここにあり、この染色体の本数異常の率が年齢と共に少しずつ増えてしまうのです。
そして、その染色体本数異常の頻度は、受精した初期胚ベースで調べると60から70%に上るというデータがあるとのこと。このデータがどこまで信ぴょう性があるか分かりませんが、驚くべき数値ではないでしょうか。
現状で体外受精の成功率は20%台とされますが、上手いかなかった例のほとんどが、どうしても起こり得る染色体の本数異常が原因と考えることも出来ます。そうなると、医学的には体外受精の方法等をいくら考えても、現状より妊娠、出産の率を上げることは困難です。
漢方で云うならば、「腎」をケアして生殖力を維持すれば、何とかこの染色体本数異常の率を下げることが出来るのではないかと感じています。
★体外受精の刺激方法別の妊娠率(移植あたり)は自然周期がよい
現状で体外受精の方法として、施設間で大きな違いがある採卵時の刺激方法ですが、1移植あたりの妊娠率は自然周期がもっとも良いというデータが、斎藤英和国立成育医療研究センターの医師の話の中にありました。
最近は過剰な刺激方法が敬遠される傾向がありますが、やはり体に負担のかからない自然に近い誘発がもっとも結果も良いようです。
個人的にも卵巣に負荷をかける過度な誘発はどうかと思いますので、今後穏やかな誘発を行う病院がどんどん増えるといいと感じます。
★人工授精の前の日に夫婦生活を行ってもよい
これは日本性科学会理事長の大川玲子先生によるセックスレスの問題についての話の中で、佐藤孝道先生がご自身の考えとして述べられていたのですが、私も同感です。
基本的に妊娠するためには、夫婦生活はある程度多い方が良いことは知られています。よく病院で体外や人工受精の前に5日から7日も禁欲するように言われることがあるようですが、私は反対です。
もちろん男性の年齢や体質にも依りますが、自然に夫婦生活が出来れば一番であり、精子が1週間も出されない状態はどうでしょうか?
とはいえ、漢方的にはあまり頻度が多いと「腎」が傷つくので過度な性生活を戒めています。
以上、やや専門的になってしまいましたが、印象に残った三点をピックアップしてみました。講義にもありましたが、最近は情報が氾濫しているため、不妊治療に関していろいろと惑わされることも多いと思います。情報の質を確認しながら、ご自身の体のことをしっかりと勉強出来るといいですね。
不妊カウンセリング学会講義を聴いて
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