おそらく日本で一番有名な漢方の軟膏が紫雲膏(しうんこう)です。名前の由来は諸説あるようですが、「紫根(しこん)」という生薬が使われているために、「紫」の文字が入っていることは間違いないところでしょう。実際の軟膏も紫色をしており、紫雲膏を塗ったあとに服を着てしまうと色が付いてしまいます。
紫雲膏は様々な皮膚の症状に使われていますが、やけどやしもやけ、痔などに効くとされます。ちなみに当店にある紫雲膏の効能効果は、ひび、あかぎれ、しもやけ、魚の目、あせも、ただれ、外傷、火傷、痔核に依る疼痛、肛門裂傷、湿疹・皮膚炎とこれだけ列記されています。
紫雲膏は江戸時代の有名な医師である華岡青洲(はなおかせいしゅう)が作ったとされます。昔は現代よりも切り傷やすり傷が多かったでしょうから、紫雲膏は重宝されたのではないでしょうか。
この紫雲膏の主成分はもちろん「紫根」になります。「紫根」は血流を良くしながら、解毒の作用があるとされ、煎じての飲用もされます。そして紫雲膏のように外用としても同様の作用が期待できる生薬です。
紫雲膏にはその他に「当帰」という生薬も入っています。「当帰」は「血」を増やし潤いをもたらします。
この二つの生薬が薬効のポイントですが、この他に豚脂やゴマ油などが入っているため、特有の臭いがあります。この臭いが気になるという方は多いのですよね。
紫雲膏は100年以上前から使われてきた漢方の軟膏であり、効能効果も認められています。成分から考えると乾燥している炎症性の皮膚炎に有効でしょう。とはいえ、どのような皮膚病にも万能というわけではなく、ジュクジュクしたような皮膚疾患には合わないように感じます。
一方で太乙膏(タイツコウ)は和剤局方という、西暦1100年頃、中国宋の時代に書かれた書物にある処方を元に作られた製剤です。和剤局方と聞くと日本の書物のような印象を受けますが、中国の漢方処方集です。
こちらも効能効果に切り傷、かゆみ、虫刺され、軽いとこずれ、やけどと列記されており、一見、紫雲膏と似ているように感じられるかもしれません。しかし内容の生薬は、「当帰」「桂皮」「大黄」「芍薬」「地黄」「玄参」「ビャクシ」が等量となっており、全く異なってきます。
一言でその作用を言い表すことは難しいのですが、皮膚の修復に優れた力を発揮します。
タイツコウもやはりゴマ油が使われていることもあり、臭いが気になる面はありますが、潤いをもたらす効果も期待できる優れた漢方軟膏であると感じます。アトピー性皮膚炎に関してはどちらかといえばタイツコウの方が合う方が多いのではないでしょうか。ある程度炎症が鎮まったものの、掻き傷が多いという場合に適しています。
紫雲膏にしてもタイツコウにしても、ベトベトしていて塗りにくいという点、また独特の臭い、色がネックとなります。それでも何かの時に備え、これらの軟膏を家庭に常備していると心強いように思います。
とはいえ、軟膏の選択においても漢方の専門家に判断を仰ぐことが一番です。特に慢性の皮膚炎に用いる場合には、皮膚の状態に依り対処は異なりますので、最も適した軟膏を塗りたいものですね。
紫雲膏とタイツコウ
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