甲状腺機能亢進症 バセドウ病 漢方.jpg甲状腺機能亢進症は、甲状腺機能が亢進しホルモン合成が活発となり、結果としてホルモン値が血中に過剰に検出された状態を指します。甲状腺ホルモンは、言うなれば”体を活性化する”役割を担いますので、その過剰分泌は頻脈・発汗・食欲亢進・イライラ・動悸・疲労倦怠感などを引き起こします。言うなれば、体のアクセルが入りっぱなしになってしまったような状況です。眼球突出症状が特徴的と言われますが、必ずしも起こる訳ではありません。
甲状腺機能亢進症は大部分がバセドウ病であるとされます。バセドウ病は、医学的には自己免疫疾患、すなわち自分の体(この場合は甲状腺)を間違えて攻撃してしまう病気です。しかし、なぜバセドウ病が発症するのか、根本的な原因は全く分かっていません。女性に多い疾患で、妊娠や出産が契機に発症となることも多いのですが、逆に不妊の原因ともなります。ストレスや疲労も原因の一つとされています。
西洋医学的には抗甲状腺薬があり、ある程度の効果を認めますが、2年間服用して30-40%程度の方しか寛解(病気が治まったと呼べる状態)に至らないとされます。再発率も高いとされます。また、このお薬には重篤な副作用(無顆粒球症)があり、使用には慎重を期するべきでしょう。
また甲状腺腫等の場合には外科的手術も検討されます。
漢方の考え方で甲状腺機能亢進症を考えた場合、「陰虚」症状と非常によく合致します。「陰虚」とは体の「陰」すなわちブレーキの役割をする物質の不足状態を指します。ブレーキが壊れているために、アクセル(陽)一杯の状態が継続してしまうと考えます。よって「陰」を補うことに依り、そのバランスが保たれ、体が正常に動き出すと考えます。
「陰虚」は、睡眠不足や「血虚」とも関連が深い体質です。バセドウ病が起こる原因として言われている「疲労」の元となる睡眠の不足は、「陰」を消耗させる代表的な要因です。また出産や育児は「血」を多量に使用しますので「血虚」となり、最終的には「陰虚」になっていきます。
このように、医学的に言われている要因と、「陰虚」体質になりやすい生活様式は非常に良く似ていると言えるでしょう。
よって「陰」を体の中に取り入れ、補うことにより、イライラや発汗など”熱過剰”症状が抑えられ、甲状腺機能亢進症の治療につながります。具体的には「補陰薬」の代表である「六味地黄丸(ろくみじおうがん)」を基本として、その方の体質に合わせた漢方処方が選択されるでしょう。例えば、疲労感が強い場合などは「補陰」「補気」の力を持つ「麦味参顆粒(ばくみさんかりゅう)」が最適です。病院のお薬との併用も可能な場合が多いですし、再発が気になる方など、ぜひ漢方の専門家と相談し服用を検討してみて下さい。
なお甲状腺機能亢進症の方は、漢方薬だけでなく「陰」を労わる生活をすることが大事です。睡眠をたっぷりと取り、早寝早起きを心がけましょう。そして、「補陰」の効果があるヤマイモなどの根菜類や、豆腐、豚肉などを積極的に摂るといいと思います。
甲状腺疾患は最近増えていると言われます。非常に忙しく、ストレスが多い現代生活が要因だと私は考えています。上記に挙げたような不快症状が出てきたら早めに漢方薬でバランスを整えてあげるといいですね。
参考図書;今日の治療指針(医学書院)