不妊治療を行っている病院で処方されることが多い漢方薬の一つ「柴苓湯」。着床障害や、流産を繰り返してしまう習慣性流産、そしてたくさんの卵胞が育ってしまうPCOS(多嚢胞性卵巣症候群)などに用いられることが多いようです。文献を調べてみますと、いくつか改善例が報告されています(文末文献参照)。

そもそも「柴苓湯」という漢方薬は、「小柴胡湯」という処方と「五苓散」という処方を組み合わせたもの。「小柴胡湯」は「和解剤」に分類される処方で、体の中に入った「邪気」が、体内の表と裏を行ったり来たりせめぎあっているときに、その「邪気」を追い払うための薬です。よって、カゼをこじらせてしまって熱が上がったり下がったりというような時にもっとも良く使われます。一方で「五苓散」は、「去湿剤」に分類され、体の不要水分を除く作用があります。よって、むくみや下痢、嘔吐などに用いられる処方です。
すなわち、「柴苓湯」は、カゼの後期などに下痢気味であったり、むくんだりしたときなどに使用する漢方薬です。なお、実際に「柴苓湯」の薬効として認められている症状は「急性胃腸炎」「暑気あたり」などとなっています(メーカーによって違いがあります)。

それではなぜPCOSに「柴苓湯」が有効なのでしょうか?下記の論文にも述べられていますが、原則として中医学は「証」に合わせて処方薬を決めます。よってPCOSを改善する可能性があるために「柴苓湯」を試すという考え方ではなく、「柴苓湯」に見あう「証」であった方がPCOSであった場合に薬を試す、という形が本来です。しかしながらPCOSの方は、やや肥満傾向にある方が多く、そのため「湿」がたまっている「柴苓湯」に合う体質である方が偶然多くなる、という可能性が考えられます。
同様に、習慣性流産の方は、ストレスがかかって胃腸があまり強くない傾向が見受けられ、結果として「気」の滞りや「湿」が存在している方が多いように私は感じられます。よって、たまたま「柴苓湯」が効いているのではないか、と個人的には考えます。

しかしながら、PCOSの方は必ず「湿」が溜まっているわけではなく、習慣性流産の方も全員が「気」の流れが悪いということもありません。よって、病名で服用する漢方薬を判断するのではなく、しっかりと「証」を見極めることが重要です。特に「陰虚」と呼ばれる乾燥体質の方には全く合わないばかりか、弊害が出る可能性もあります。口が乾き、便秘気味で、やせ型の方にはとてもおススメできません。
ちなみに「湿」を除く処方や、「気」の巡りを改善する処方は他にもたくさん存在します。それらの中から、もっとも症状、体質に合った漢方薬を服用していくべきで、「柴苓湯」にこだわる必要はないと考えます。私自身の経験では「柴苓湯」がピッタリの方はとても少ないですよ。専門家によく相談して、ご自身に最適な漢方薬を見つけてみて下さいね。

【紹介論文(リンクはCiNii(論文データベースサービス【国立情報学研究所提供】)です)】

原因不明反復流産患者に対する柴苓湯の有用性の検討
内藤直樹他
日本東洋醫學雜誌 47(4), 631-634, 1997-01-20
https://ci.nii.ac.jp/naid/110004001223

クロミフェン無効な多嚢胞性卵巣症候群に対し,柴苓湯の併用療法が奏効した6症例の検討
中山 毅他
日本東洋医学雑誌 66(2), 83-88, 2015
https://ci.nii.ac.jp/naid/130005092925