不妊治療の際に、最近注目されているファクターの一つが「Th1/Th2バランス」です。何やら難しい用語なのですが、一言でいえば免疫バランスを示します。
血液の成分としては、おなじみの赤血球や白血球などがありますが、その白血球の中でさらに細かく種類が分けられ、その一つがTリンパ球と呼ばれる細胞です。そして、そのTリンパ球の一つにヘルパーT細胞があり、免疫反応を調整しているのですが、ヘルパーT細胞はさらに役割別にTh1とTh2に分類されます。
Th1は細胞性免疫に関係し、Th2は液性免疫との関係があります。細胞性免疫とは、マクロファージなどが異常細胞を排除するやや大ざっぱな免疫システムで、液性免疫は主に抗体を産生して異物排除につなげる、個別の免疫システムとなります。

説明が長くなりましたが、もちろんTh1もTh2も体にとって大切な免疫に関わる細胞です。しかしそのバランスが崩れ、Th1が多くなりすぎると自己免疫疾患が起こりやすくなり、Th2が多くなりすぎるとアレルギー症状が出やすくなると言われています。またTh1細胞が弱いと、がんなどになりやすくなる可能性も考えられます。

そこで本題ですが、不妊症の患者を対象にしたth1/th2バランスの違いによる妊娠率や流産率を調査した文献では、妊娠率には影響がないものの、流産率や妊娠継続率に統計的な差があることが確認された、としています。th1が非常に高い方は、流産率などが高かったということです1)。

ただ個人的には、この文献だけですべて判断できるとは考えません。教科書的には正常な妊娠はTh1優位であると受精卵を攻撃してしますので、Th2優位でなければならないとされますので、納得ではあるのです。しかしながら、流産がこの数値だけで説明できるとは到底思えません。流産にはこれ以外の要素がたくさん絡んでいるように感じるからです。あくまで参考程度の数値ではないかな、と考えています。

一方でこのTh1/Th2バランスを漢方薬で整えるという考え方は以前から知られています。「補中益気湯」などはTh1を高め、Th2を抑制するとします2)。ただし、今回はTh1が高いと良くないという結果であり、上手くあてはまりません。なお「柴苓湯」はTh1を高め、Th2は変化しないとの考え方が一般的のようです。一方、西洋薬では「タクロリムス」という免疫抑制剤が良いとされます。

さて、私なりにTh1/Th2バランスを中医学でどのようにとらえれば良いか考えてみたのですが、「陰陽」ではなかなか説明が付きません。あえて当てはめてみれば、Th1を高める作用を持つ漢方薬は、温める力を持つ処方が該当し、Th2を鎮める作用を持つ漢方薬は、「陰」を補う性質を持つのではないか、とも感じました。少し強引ではあるのですが…
一つの考え方としてですが、もしかすると温め過ぎはTh1優位となり、妊娠継続に良くない可能性がある、とも言えるのかもしれません。

いずれにしても漢方薬の服用は「弁証論治」が大前提です。Th1/Th2バランスの結果も頭に入れつつも、実際に感じている感覚や症状を基本として専門家と相談し、服用する漢方薬を考えていきましょう。

参考文献
1)Immunosuppressive treatment using tacrolimus promotes pregnancy outcome in infertile women with repeated implantation failures
Koji Nakagawa Joanne Kwak‐Kim Keiji Kuroda Rikikazu Sugiyama Koushi Yamaguchi
First published: 03 May 2017

2)漢方薬の免疫薬理作用 ―慢性疾患の改善作用の主要機序として―
川喜多 卓也
日本薬理学雑誌 2008 年 132 巻 5 号 p. 276-279