どこか汚い印象のある痰ですが、もともとは人間の体に必要な気道からの分泌物です。この分泌物は粘液状であるため、細菌やウイルス、ほこりなど、体にとっての異物が気道に入ると絡めとり、痰として体外に除去します。体を守る仕組みの一つですね。
しかし、気道の炎症など呼吸器疾患などが原因で痰が増えてしまうことがあります。そして、体力の低下や加齢で痰を出すことが困難になると、気道が閉塞して、呼吸困難を生じる可能性が出てきます。よって意識のない方や高齢者は痰の吸引が必要です。私はまだ介護の経験が無いのですが、一定時間ごとの痰の処理は非常に大変な作業であることでしょう。

痰はカゼの際にも気になる症状の一つで、咳の原因ともなって不快です。そこで病院に行くと「痰切り」として、お薬が処方されます。代表薬のムコダインは気道粘膜修復の作用があるとされますが、残念ながら効果てきめんだったという話は聞きません。他に、気道分泌液を増やし痰を薄くすることで、出やすくさせるタイプのアスベリンが処方される場合もありますが、これもなかなかすぐに快適とはいかないことが多いようです。

ということで厄介な痰は、漢方でも取り除きずらいものとされます。「痰」は中医学でもう少し広い意味で捉えるのですが、性質として粘り気があるとされ、少しずつコツコツと除く必要があると考えます。もちろん短期的に生じた「痰」は比較的取り除きやすく、慢性的に生じている「痰」は時間をかけて除かなければなりません。
いずれにしても、病院の治療で効果が無い、根本的に痰を少なくすることを考えたいという方は、漢方によって違う角度から体に働きかけることを検討しても良いのではないでしょうか。

さて漢方では「痰」を体の不要物とし、「痰」が体内にあることで、体の重だるさや頭重、下痢やむくみ、めまい、吐き気、胸のつかえなどの原因になるとされます。よって、去痰剤に分類される処方は、これらの症状を除く作用があると定義されます。
「去痰剤」のもっとも代表的な処方が「二陳湯」です。この処方は古いもの(陳)ほど良品であるとされる陳皮と半夏の二つの生薬から成ります。この「二陳湯」をベースとした処方が多数あり、「痰」の状態や体質などを考えて応用されます。たとえば「温胆湯」は、清熱作用があるため、黄色い痰が出るなど「熱」がこもっている時に用いられる処方です。

このように漢方での痰対策はいくつかの方法がありますが、やはりその時の症状や体質を見極めての服用が大切です。特に高齢者については、体の深い部分は潤い不足が同時に存在していることも多く、単純に「痰」を除くことが悪影響をもたらす可能性さえあります。漢方薬を服用する際は、必ず専門家に相談するようにしましょう。

なお「痰」はチョコレート、スナック菓子、生クリーム、コーヒー、お酒、炭酸飲料、油っこいもの、生ものなどによって溜まりやすくなるとされます。また、飲み過ぎだけでなく、食べすぎにも要注意です。
逆にお米や海藻類、根菜類、こんにゃく、もやし、ゴボウなどは「痰」を除くとされます。また定期的な運動を心がけて、適度に汗をかくことも大切ですよ。

「痰」は自分にとっても、周りの人にとっても不快なもの。中医学の知恵を上手く利用して、「痰」体質改善を目指してみて下さいね。

≪参考図書:今日の治療薬(南江堂)≫