強迫性障害は、強迫神経症とも呼ばれ、自分の意志に反して繰り返される「強迫観念」と、それを打ち消すために反復して行われる「強迫行為」を特徴とする疾患です。よく例として挙げられるのが手洗いです。「清潔に保つために手をしっかり洗わなきゃ」という思いが強く、そこまでは必要ないと分かっていながらも何度も何度も、時には何時間も手を洗ってしまいます。現在は新型コロナウイルス感染症のことがありますので、手洗いだけでなく、アルコール消毒についての「強迫観念」が生じると、消毒行為を繰り返し、ひどい手荒れとなっている方もいらっしゃることでしょう。一生の間で強迫性障害の症状が現れる確率は2~3%とされるため、決して珍しい病気ではありません。なお男性と女性の発病に差はないものの、若い方に多い傾向があるようです。

現代医学では、強迫性障害が生じる原因ははっきりと分からないとされます。ストレスや感染症、生活環境などの複合要因が関係しているともされますが、それらの結果として、脳の機能変調が生じ、発症すると考えます。病院では、パキシルやルボックスと云ったうつ病に使われる薬が処方されることが一般的です。その効果がない時はジェイゾロフトなどに切り替えるとされますが、切り替えるのではなく、段々とお薬の量が増えるケースもあるようです。
もちろん薬の服用で症状が良くなれば問題ありませんが、長く薬を続けること自体が不安になってきたり、根本的な解決となっていないのではと考えてしまうこともあることでしょう。また、強迫性障害と一口に言っても、症状が強い場合とそこまでではないケースもありますし、環境等も様々です。その状況に寄り添って、長い目で見ての治療が必要となってきますが、医院での対応が難しいこともあります。
このような場合は漢方での対策も一考ではないでしょうか。

さて強迫性障害を漢方的に捉えると、多くの場合において「心神不安」が原因であると考えられます。「心神不安」とは、五臓の「心」に存在する「神」が不安定となっている状況です。「神」は精神とも言い換えられ、中医学では一人一人「心」の中に「神」を持っていると考えます。その「神」がグラグラと動いてしまったり、攪乱されたりすると、不安感や焦燥感などを生じるとします。
この「心神不安」対策として用いる処方としては「天王補心丹(てんのうほしんたん)」や「柴胡加竜骨牡蠣湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)」が知られます。しかし、なぜ「心神不安」が生じているのか、根本的な理由を探ることが何より大切です。その原因に合わせて処方を選択することで、より良い効果を期待できるでしょう。
その中医学的な判断のためには、ぜひ専門家にご相談ください。

手洗いなどは一般的な行為であって、それを少し神経質に行ってしまう病気が強迫性障害です。確認の繰り返しなどに時間がかかり過ぎて生活上自分が困っていないか、また家族など周りの方に迷惑をかけていないかどうかがポイントです。
中医学的にはわずかなバランスの崩れが原因の場合も多く、それを直すきっかけがあれば症状はきっと良くなっていきます。怖がらず、しかし侮らず、対策を考えてみましょう。

●今日の治療指針(医学書院)
●厚生労働省ホームページ
https://www.mhlw.go.jp/kokoro/know/disease_compel.html