新聞や雑誌、ラジオなどでよく耳にする漢方薬といえば「八味地黄丸」。頻尿、尿漏れ、残尿感などに効く、として宣伝されていることが多いです。特に高齢者のこれらの症状は老化が主な原因であることがほとんどであり、病院では対処の方法が無いため、漢方薬を頼りにする方が多いのだと思います。

「八味地黄丸」は名前のとおり8種類の生薬が入っており、伝統ある名処方です。元は「六味地黄丸」という処方があり、ここに「附子」と「桂皮」が加わると「八味地黄丸」になります。ちなみに「地黄」はこの処方の主役とも呼べる生薬で、構成成分の一つです。
この「八味地黄丸」は、「補腎陽」の作用がある処方と定義されます。「腎」すなわち生命力を担う臓の「陽」を補うという意味で、体を温めます。前述の「六味地黄丸」は「補腎陰」の処方なのですが、ここに「附子」「桂皮」という体を温める力の強い生薬を加えることで「補腎陽」の作用を持つことになるのです。
よって、体が冷えていることが前提で、腰が痛んだり、むくみ、尿トラブルがある方に適用されます。

ここで注意して頂きたいのは、高齢者は「腎陽虚」すなわち冷えタイプの方はそれほど多くない、という点です。逆に「腎陰虚」すなわちほてりタイプの方が多い印象があります。口が乾き、皮膚が乾燥し、空咳が出やすい、という方は「腎陰虚」の可能性が高いです。そして「腎陰虚」でも頻尿などの尿トラブルは起きることがあります。

すなわち、頻尿、尿漏れ、残尿感などの尿トラブルがある方すべてに「八味地黄丸」が合う訳ではなく、逆に合わない方が多いと考えられます。特に口の渇きが強い方などは「八味地黄丸」が逆にその症状を悪化させてしまう可能性もあります。
ちなみに「八味地黄丸」に入っている「附子」は慎重に使うべき生薬とされていて、中国ではあまり使用されません。
以上の理由から「八味地黄丸」をむやみに服用することは控え、漢方の専門家に相談をしてから服用頂くことをお勧めします。

「八味地黄丸」に限らず、病名で服用する漢方薬の選択をすることは出来る限り避けた方が良いです。日本で医薬品として認められた漢方薬はその適用を受けた病名で効能効果を謳えるのですが、これを商売に利用しているケースが非常に多いと危惧しています。本来の漢方薬の使い方では無いため、効果を実感する方が限られる可能性が高く、漢方の評判を下げてしまうことにならないか心配です。

とは言え、理論どおりの使い方であれば、漢方薬はすばらしい効果を発揮します。せっかく服用するのであれば、宣伝文句に惑わされず、信頼できるお店で相談をして納得のうえで飲んでくださいね。