子宮内膜炎は、細菌感染によって、子宮内膜に炎症が生じる疾患です。原因菌は大腸菌やマイコプラズマの他、多岐にわたります。似た名前の疾患として子宮内膜症がありますが、これは子宮内膜が普段とは違う場所に起きる疾患であり、子宮内膜炎とは全く異なります。
子宮内膜は毎月の生理で入れ替わるため、細菌感染も短期間で終わるようにも感じられますが、感染が基底層と呼ばれる置き換わらない深い部分に達していると、慢性化してしまうと言われます。

子宮内膜炎の自覚症状としては、オリモノに色がついたり多くなったりなどの他、下腹部の不快感が知られます。しかしながら、症状がほとんど感じられない方も多いようです。
また診断方法も診断基準も明確に規定されておらず、現状はCD138陽性細胞の有無と子宮鏡の所見によって判断するにとどまっています。

しかし子宮内膜炎が不妊に大きな影響を与える可能性が多数の論文で示され、最近注目を集めています。子宮内膜炎は反復流産や反復着床不全と呼ばれる、子宮内膜に起因する不妊・不育の原因の一つの可能性が高いのです。いわゆる子宮内フローラ(細菌叢)と呼ばれる、子宮の中の環境が、妊娠に影響を与えているとも考えられます。

子宮内膜炎が不妊や不育の一つの原因になっているとすれば、その医学的治療には抗生物質が使われます。もちろん抗生物質で細菌を死滅させて、炎症を鎮めるにこしたことはないのですが、前述したように子宮内には細菌のフローラがあり、良い菌から悪い菌までたくさんの菌が環境を作り出しています。これを抗生物質で単純にやっつければ済む、という単純なものでは無いように感じます。たとえ抗生物質や掻爬で一度良い環境となっても、すぐに戻ってしまうことも考えられます。
よって、漢方薬に依る子宮内膜炎対策も有用であるように感じます。

炎症であるという点と、代表的な自覚症状から推測すると、子宮内膜炎は漢方的には「熱」の存在があると考えられます。よって、「清熱薬」と呼ばれる、「天津感冒片」や「五涼華」などの漢方薬が子宮内膜炎対策として有用であると思われます。実際に子宮内膜炎に「清熱薬」を使用して、妊娠したという報告があります。
とはいえ、子宮内膜炎は最近注目されてきた不妊原因であり、まだ漢方的な治療例も少ないようです。私自身も明確に子宮内膜炎を指摘された方の相談を受けたことがありません。しかし今まで原因不明とされてきた着床しない、流産しやすい方に子宮内膜炎が隠れている可能性もあり、今後は一つの選択肢として、「清熱薬」の使用を考えていくべきと思っています。

≪参考資料:日本生殖内分泌学会雑誌(2016)21 : 33-35 慢性子宮内膜炎の謎 竹林 明枝他≫