現時点(2020年4月16日)で世界的な脅威となっている新型コロナウイルス感染症。同じカゼ様症状を引き起こすインフルエンザウイルス感染症に対しての治療薬やワクチンを見ても分かるように、呼吸器系に影響する変異を繰り返すウイルスに対して人類が持つ対抗手段は限られ、特効薬や完全に感染を防ぐワクチンの開発は難しいと考えたほうがよさそうです。下記に紹介する論文で、横浜薬科大学の渡辺賢治教授も「人類が薬を開発しても、ウイルスが変異するといういたちごっこが起きることは歴史が証明している」という内容を述べられています。
となれば、何千年も感染症と戦ってきた人類が持つ一つの武器である漢方を用いて、新型コロナウイルスとも対峙していく、という手段を考える必要があると思います。もちろんいまだ未知の部分も多い感染症ですが、中国武漢で治療にあたった張伯礼天津中医薬大学学長からの報告を中心に、前述した渡辺教授や金沢大学附属病院漢方医学科小川恵子教授の論文の内容を参考とさせていただき、現在分かっている知見をまとめてみたいと思います。

1、予防について

現在の医療体制において、漢方薬を予防として服用することは想定されていません。しかしながら、漢方薬には医学的にも免疫力を上げる効果が知られています。張先生も述べられていましたが、「弁証論治(各人の体質・症状に沿って治療方針を組み立てること)」を行い、人それぞれの対策で体のバランスを整えて、免疫力を高めていくことが、感染予防につながると考えられます。
よって、下記は一般的な漢方的な概念になりますが、参考までに記します。

1)「衛気」を高める
中医学には「衛気」の概念があり、これは体の防御力を担う「気」です。この「衛気」が不足すると粘膜が弱くなり、外からの「邪気」が体に侵入しやすくなります。
この「衛気」を高める漢方薬としては「玉屏風散」が知られます。

2)「肺陰」を補う
「肺」は乾燥を嫌う「臓」であり、その「陰」すなわち潤いを保つことが大切です。この「肺陰」を補う漢方薬としては「麦味地黄丸」「生脈宝」などが知られます。

3)「お血」対策を行う
血行不良状態である「お血」は、血管内皮細胞の状態を悪化させ、感染症に罹った際に出血しやすい状態となりやすく、症状を悪化させてしまうことが知られます。「お血」対策の漢方薬としては「冠心Ⅱ号方」などが知られます。

2、感染初期対策

感染初期の症状としては、「だるさ」「咳」「発熱」そして「味覚障害」などがあるとされます。これらの症状の多くが「湿毒」の影響とされます。張先生は、今回の新型コロナウイルスは「湿毒疫」であると示されています。
もちろん患者さんそれぞれの体質や症状が異なりますので、「弁証論治」が原則ですが、「湿毒」であることを踏まえ、特に胃腸の不調を伴う倦怠感が強い時には「かっ香正気散」が良いという張先生のお話でした。
また、発熱を伴うような時は、「金花清感顆粒」等が良いとされますが、これは日本に適する漢方薬があまりありません。敢えてあげれば「銀翹散」「荊芥連翹湯」などとなります。

3、感染確定した場合

現状では隔離もしくは入院となるかと思いますが、重症ではなく様子を見るという状況の時にこそ、漢方薬を使いたいものです。中国では「清肺排毒湯」という処方の煎じ薬をまとめて作成し、何百人という患者さんに服用させたそうです。
この漢方薬は「麻杏甘石湯」「小柴胡湯」「五苓散」を合わせたような処方です。

以上まとめてみましたが、まだエビデンスが十分な内容とは言えないのが現状です。しかし、様々な場面で役に立つ可能性があるのが漢方薬ではないでしょうか。今後、特に、軽症の方の重症化を防ぐために漢方が活用できる機会が増えることを強く期待したいと思います。

【参考文献】
小川恵子先生論文
COVID-19 感染症に対する漢方治療の考え方
日本感染症学会HP

渡辺賢治先生論文
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する漢方の役割
WEB医事新報(日本医事新報社)