勃起障害(ED)は男性にとって深刻な悩みです。性生活を行うことに支障をきたす状況ですから、当然不妊の原因となります。赤ちゃんを望むパートナーの期待に応えられないという状態は、精神面にも影響を与えます。医学的定義は「満足な性行為を行うのに十分な勃起が得られないか、維持できない状態であり、少なくともこの状態が三か月持続する」とされます。30-70代の男性で中等度以上のEDは1,130万人にも及ぶとのことです。軽度症状を含めると約3人に1人がEDに悩んでいるとされます。

EDには器質性、心因性、混合性があります。
器質性は高血圧、糖尿病などにより、血管や神経の障害が生じ、勃起に影響を与えます。勃起は陰茎に血液が十分に流れ込むことが必要ですから、血流が悪くなってしまう糖尿病や脂質異常は勃起に影響を与えることになります。また喫煙、腎臓病などもリスクになるとされます。
心因性は性生活と関係のないストレスが原因の場合もあれば、過去のトラウマやパートナーとの関係性の問題で発症することもあります。
そして混合性は器質性と心因性が合わさって生じているEDということになります。

良く知られるバイアグラは対症療法に過ぎません。なぜEDが起きているのかを医学的な原因を探り、生活習慣を含め、対策を取ることが大切とされます。とは言え、原因が明確に特定できることは多くありません。

さて中医学の観点から見ると、EDの男性は心身のバランスの崩れがあると考えられます。病院では時間の関係もあって原因が明確にならないケースが多いと思われますが、漢方薬局で問診を行えば、自然と理由が明確になっていくはずです。
まず生殖の問題は「腎」の衰えを考えます。ED患者は年齢とともに増えます。これは「腎」が加齢に伴って衰えることと矛盾しません。また糖尿病や慢性腎臓病といった腎臓に影響を与える病気が関係していることも「腎」の大切さを物語っています。性欲が無い、早朝勃起が無い状態であれば、「腎」のケアが必要です。この場合は「補腎」の力を持った漢方薬が力を発揮します。いわゆる若返りの作用を持つとされるものはたくさんあり、枸杞子(クコシ)、スッポンの甲羅、カエルの卵管などはその代表格です。
もう一点、血流が悪い状態もEDの原因と考えられます。前述したように勃起にはスムーズな血流が重要です。中医学で云う「お血(血行不良状態)」の改善が見込める「冠元顆粒」などの使用が必要な場合も多いでしょう。
そして最後に心因性が原因の場合です。これは「気滞」と呼ばれる、エネルギー循環が悪く、イライラしやすいタイプと、うつ傾向で不眠、不安感が強い「心血虚」の二つの可能性が主に考えられます。どちらかといえばEDにはナイーブな「心血虚」が関係していることが多い印象です。この場合は「天王補心丹」や「婦宝当帰膠」などを用います。
いずれにしてもEDを引き起こしている原因体質を中医学的に見極めることが重要です。また漢方薬だけでなく、生活習慣の工夫も回復を早めます。専門家によく相談してから対策を考えていきましょう。

EDは男性の心身のバランスが乱れているというSOSサインと捉えることも出来ます。不妊治療において精子採取が出来るから問題ないなどと考えず、ぜひED対策を考えてみて下さい。それが精子の質だけでなく、男性の健康状態を高めることにもつながっていきますよ。

≪参考図書:今日の治療指針(医学書院)≫