
ジストニアは自分で制御することが出来ない、意図しない筋肉の運動を呈する病態です。その運動はパターン化されたものが多いと言われます。すなわち発作時はいつも似たような、無意識な動きをしてしまいます。以前トピックとして取り上げました「書痙」もジストニアの一種です。
私がジストニアという病気の名前を知ったのは、比較的最近で、新聞でロックバンド「RADWIMPS」のドラマーである山口智史さんが、この病気を患い、ドラムを叩けなくなったという記事を読んだ時です。その他にもピアニストやバイオリ二ストが多く発症しているそうで、野球選手にもよく見られるイップスもジストニアの一つとのことです。
ジストニアには、全身性と局所性があります。全身性ジストニアでは、同じく神経性の筋肉不随意運動を呈するパーキンソン病で用いるレボドパやトリヘキシフェニジル、不安などに用いられるジアゼパムなどの薬剤治療の他、神経に対して電気刺激を行う方法などによって対処します。一方で局所性のジストニアでは、神経に作用するボツリヌス毒素の注射などによる治療が行われます。
しかし、これらの治療法で改善しない方も多く、また副作用の心配もあります。その場合に一つの手段として中医学・漢方の考え方を取り入れてみるという方法もあるのではないでしょうか。
中医学でジストニアの症状を考えると、「風邪(ふうじゃ)」の存在があると考えられます。体の中に「風」があると、体を動かし、けいれんなどの症状を引き起こすとします。この「風邪」を鎮める作用を持つ処方として、「半夏白朮天麻湯(はんげびゃくじゅつてんまとう)」や、「釣藤散(ちょうとうさん)」などが候補として挙げられます。
また、筋肉を栄養する「血」の不足が影響し、筋肉の意図しない運動を引き起こしている可能性も考えられます。この場合は、「補血」効果を持つ、「婦宝当帰膠(ふほうとうきこう)」や「心脾顆粒(しんぴかりゅう)」などが良いと考えます。
さらには、ストレスが関係し、神経的な流れが滞り、異常な運動が生じている場合もあると思われます。
このケースであれば、「気」の巡りを改善する「逍遥顆粒(しょうようかりゅう)」や、「気血」の流れを改善する「冠元顆粒(かんげんかりゅう)」などが適します。
また、神経・経絡の問題として考えれば、鍼灸の使用も一考と思われます。
とは言え、同じジストニアでも症状は様々で、どのようなシチュエーション、どのような時間で起こるのか、その方の持つ体質等も考え合わせて、中医学的な観点から漢方薬を選定していく必要があります。緊張が関係していることは間違いなく、日頃からリラックスすることやそのための養生も大切と考えます。
非常に悩ましい病気であり、プロの方にとっては、人生に関わる病気となるジストニアの症状軽減に中医学、漢方の考え方が役立つことが出来ればとてもうれしく思います。
≪参考ページ:ジストニア(社会福祉法人恩賜財団済生会)https://www.saiseikai.or.jp/medical/disease/dystonia/≫